不動産会社に転職しようと考えている20代の諸君へ、不動産会社の業務や給与について疑問を解消します。不動産会社への転職によるメリットデメリットについても解説し、さらに個人の適性や将来のキャリアパスまで、大手不動産会社勤務歴のある筆者がアドバイスします。
不動産業界の知っておくべき3つのポイント
転職先として不動産業界が気になるけど、何も知らない。そんな悩みを抱えていませんか?この章では不動産業界を理解するための重要なポイントを3つご紹介します。
1.不動産会社の主な種類と業務内容
不動産会社は大きく分けて「仲介」「管理」「売主(ディベロッパー)」の3つに分類されます。それぞれの特徴と主な業務内容を理解しておきましょう。
仲介会社
仲介会社は売買や賃貸の物件を探す顧客と所有者をつなぐ役割を担います。主な業務は物件案内、契約手続きのサポート、物件情報の収集などです。最もポピュラーな不動産会社の形態で、大手からローカルな中小企業まで幅広く存在します。
管理会社
管理会社は賃貸物件の家賃回収や建物のメンテナンスなどを行います。長期的な関係性構築が重要で、安定した収益が特徴です。賃貸の仲介業務を兼ねる会社もあります。
売主(ディベロッパー)
売主(ディベロッパー)は土地を購入し、マンションや商業施設などを建設・開発する会社です。大規模な投資と専門知識が必要で、プロジェクトマネジメント能力が求められます。
2.不動産会社のビジネスモデルと収益構造
不動産会社の収益構造を理解することは、自分の将来の収入を予測するうえでも重要です。主な報酬体系は以下の通りです。
歩合制とインセンティブ
多くの不動産会社、特に仲介業では「固定給+歩合給」の報酬体系を採用しています。成約した物件の仲介手数料の一部がインセンティブとして支給されるため、成績によって収入に大きな差が生じます。
固定給中心の報酬体系
管理系や開発系の会社では、比較的安定した固定給中心の報酬体系を採用していることが多いです。ボーナスや昇給で差がつく仕組みですが、営業職ほどの収入の波はありません。
収益源の多様化
仲介手数料だけでなく、リフォーム、火災保険、引っ越しなど関連サービスの紹介料や手数料も重要な収益になっています。つまり、仲介手数料に付随する収益も営業担当の実績として評価されます。
3.不動産業界の現状と将来性
不動産業界は今後どうなっていくのか、現状と将来性を把握しておきましょう。
市場規模と需要
日本の不動産市場は経済全体の中でも大きな位置を占めています。少子高齢化の進行で新築住宅の需要は減少傾向にありますが、中古住宅や賃貸市場、リノベーション市場は堅調な動きを見せています。
デジタル化の進展
ITテクノロジーの発展により、VR内見やオンライン契約など、業務のデジタル化が進んでいます。従来の営業スタイルに加え、デジタルツールを使いこなす能力が求められるようになってきました。
法規制と社会の変化
2022年の宅地建物取引業法改正など、消費者保護の観点から法規制は厳格化傾向にあります。また、リモートワークの普及により郊外や地方への移住需要が高まるなど、社会変化に伴う新たなニーズも生まれています。

20代で不動産会社へ転職するメリット・デメリット
20代での転職は将来を左右する大きな決断です。不動産会社への転職には様々なメリットとデメリットが存在します。しっかり検討してみましょう。
不動産会社に転職する5つのメリット
将来に向けた5つのメリットがあります。
1. 未経験者でも挑戦しやすい業界
不動産業界は、営業職を中心に未経験者の採用に積極的な企業が多いのが特徴です。20代であれば前職の経験よりも、コミュニケーション能力や学習意欲を重視されることが多く、異業種からの転職がしやすい環境があります。
2. 年収アップの可能性
特に営業職では、成果に応じた歩合制を採用している会社が多いため、自分の頑張り次第で収入を大きく伸ばせる可能性があります。20代後半で年収1000万円を超えるケースも珍しくありません。
3. 実務を通じた専門知識の習得
不動産取引には法律や税金、建築知識など幅広い知識が必要です。これらは実務を通じて身につけられるため、社会人としての市場価値を高められます。宅地建物取引士など、キャリアに役立つ資格取得のサポートを行う会社も多いです。
4. 人脈形成とコミュニケーション能力の向上
顧客だけでなく、金融機関や建設会社、行政機関など多くの関係者と関わることで、幅広い人脈を構築できます。また、様々な顧客と接することでコミュニケーション能力も自然と向上します。
5. キャリアパスの多様性
営業から始めて管理職へのキャリアアップ、専門分野へのシフト、さらには独立開業まで、様々なキャリアパスが考えられます。20代のうちに基礎を固めておくことで、30代以降の選択肢が広がります。
知っておきたい不動産会社のデメリットと現実
なかなか改善されない業界の悪い部分もあります。
1. 業界全体の離職率の高さ
不動産業界、特に仲介営業職は離職率が高い傾向にあります。厚生労働省の調査によると、不動産業界の平均離職率は約15%前後で、特に入社3年以内の若手の離職率は高くなっています。ノルマのプレッシャーや労働環境が主な理由と言われています。
2. 不規則な勤務形態
一般的に土日祝日が顧客の来店が多い繁忙日となるため、平日に休みを取る勤務形態が多いです。友人や家族との予定が合わせづらく、プライベートとの両立に苦労するケースもあります。
3. 厳しいノルマと精神的プレッシャー
特に仲介営業系の会社では、月間の契約数や売上目標などのノルマが設定されていることが多く、達成できないと給与や評価に直結します。常に結果を求められる環境は、精神的なプレッシャーが大きいでしょう。
4. 業績の波による収入の不安定さ
歩合制の場合、月によって収入に大きな差が出る可能性があります。また、不動産市場全体の景気の影響も受けやすく、経済状況によって業績が左右されることも理解しておく必要があります。
5. 専門知識の習得に時間がかかる
法律、税金、建築、金融など多岐にわたる知識が必要で、一人前になるまでに時間がかかります。研修制度が充実していない会社では、独学での学習負担も大きくなります。
向いている人・向かない人の特徴
不動産会社で働くことに興味はあるけれど、自分に合っているのか不安…そんな気持ちは当然です。ここでは適性を見極めるポイントをご紹介します。自分の性格や価値観と照らし合わせて、じっくり考えてみましょう。
不動産会社に向いている人の3つの共通点
不動産会社に適した人材の共通点が3つあります。
1. コミュニケーション能力が高い人
不動産業は本質的に「人」を相手にする仕事です。初対面の相手と会話を続けることが苦にならない、人の話をしっかり聞ける、自分の考えをわかりやすく伝えられるといった特性がある人は適性があるでしょう。
2. 主体的に行動できる人
特に営業職では、自ら物件情報を集め、効率的に業務を進める必要があります。自ら考えて行動できる主体性は大きな武器です。目標に向かって粘り強く取り組める忍耐力も重要です。
3. 自己管理能力が高い人
不動産営業では、複数の案件を並行して進めることが多く、スケジュール管理や優先順位付けなどの自己管理能力が求められます。計画性があり、自分自身をコントロールできる人に向いています。
向いていない人の特徴と転職前に確認すべきこと
以下のようなタイプの人は苦労する可能性が高いです。
1. 内向的で人との接触に疲れやすい人
日々多くの顧客や関係者と接する必要があるため、人とのコミュニケーションにストレスを感じやすい内向的な性格の方には負担が大きい可能性があります。ただし、管理部門なら問題にはなりません。
2. 数字やノルマに弱い人
多くの不動産会社では、契約件数や売上などの数字で評価されます。数字のプレッシャーに弱い、ノルマを課されると萎縮してしまうという方は、精神的な負担が大きくなる可能性があります。
3. 安定志向が強く、休日を重視する人
不規則な勤務形態や、時に長時間労働になることもある不動産業界では、安定したワークライフバランスを重視する方には向かない面があります。
※ワークライフバランスとは、日本語で「仕事と生活の調和」という意味です。 政府広報オンラインでは、「働くすべての方々が、『仕事』と育児や介護、趣味や学習、休養、地域活動といった『仕事以外の生活』との調和をとり、その両方を充実させる働き方・生き方」と定義されています。
転職前に確認すべきこと
- 自分が大切にしている価値観(収入、安定性、成長性など)
- 希望するワークライフバランスと企業の労働環境
- 会社の教育制度や配属される可能性のある部署
- 実際に働いている社員の様子や企業文化
これらのポイントを事前に確認し、自分の適性と照らし合わせることで、ミスマッチを防ぐことができます。

未経験から不動産業界へ転職する際の注意点
未経験からの転職は期待と不安が入り混じるものです。思い描いていた理想と現実のギャップに悩まないためにも、注意点を押さえておくことが大切です。ここでは失敗しないための重要なポイントをご紹介します。
転職活動で見落としがちな3つの落とし穴
以下の3つは見落とすことがないよう注意しましょう。
1. 求人内容と実態のギャップ
「未経験歓迎」「高収入可能」のようなキャッチに惹かれがちですが、実際の業務内容や収入構造は求人情報だけではわかりません。例えば、「月給25万円〜」と書かれていても、実際は基本給が低く、残りはインセンティブかもしれません。口コミサイトや企業の社員インタビューなども参考にし、複数の情報源から実態を把握するよう心がけましょう。
2. 雇用形態の確認不足
「正社員」という肩書きでも、試用期間中は契約社員扱いだったり、基本給が極端に低い「みなし残業」制度を採用していたりするケースがあります。給与の詳細や昇給・賞与の実績なども事前に確認することが重要です。面接時には遠慮せずに、具体的な雇用条件について質問しましょう。
3. 会社の教育体制の見極め
未経験者にとって入社後の教育体制は非常に重要です。「OJTで学べる」と言われても、実際は「ほぼ放任状態」ということもあります。特に中小の不動産会社では教育制度が整っていないケースもあるため、研修内容や先輩社員のサポート体制について具体的に質問すべきです。
転職成功に向けて準備すべき資格・スキル
不動産会社で働くために必要な資格とスキルです。
1. 宅地建物取引士資格の取得または学習開始
宅地建物取引士は不動産業界で最も基本となる国家資格です。入社前に取得していれば採用面でアピールポイントになりますし、取得していなくても勉強を始めていることで意欲をアピールできます。多くの企業では入社後に取得をサポートする制度がありますが、基礎知識として勉強しておくことをおすすめします。
2. コミュニケーション力の強化
顧客との信頼関係構築に不可欠なのがコミュニケーション能力です。前職での経験をアピールすることはもちろん、面接時の受け答えでもその能力は評価されます。質問の意図を正確に理解し、簡潔かつ誠実に回答する練習をしておきましょう。
3. 業界知識の習得
基本的な不動産用語や取引の流れ、最近の不動産市場の動向などを把握しておくことで、面接でも好印象を与えられます。「なぜ不動産業界に興味を持ったのか」という質問への説得力のある回答も準備しておくことが重要です。
4. パソコンスキルの向上
契約書作成や物件情報の管理など、パソコンを使った業務は日常的に発生します。最近では物件管理システムなどの専門ソフトを使うことも多いため、新しいシステムを学ぶ柔軟性も求められます。
どんな不動産会社を選ぶべきか?企業選びのポイント
不動産会社は千差万別、自分に合った企業を選ぶことが成功の鍵です。この章では良い会社を見つけるための重要なポイントを解説します。
ブラック企業を見抜く5つのチェックリスト
働いてみたらブラック企業だったということは避けなければなりません。
1. 離職率と勤続年数をチェック
「若いスタッフが多い」と言われる会社は、定着率が低い可能性もあります。面接時に「平均勤続年数はどのくらいですか?」「直近1年間の退職者数は?」など具体的に質問してみましょう。回答を避けたり、極端に短い勤続年数だったりする場合は注意が必要です。
2. 給与体系の透明性をチェック
基本給とインセンティブの割合、昇給実績、みなし残業の有無など、給与に関する説明が曖昧だったり、「頑張れば稼げる」という抽象的な説明に終始したりする企業は要注意です。書面での提示を求め、特に固定給部分がどの程度あるのかを明確に確認しましょう。
3. 労働時間と休日取得の実態をチェック
公式の労働時間や休日数だけでなく、実際の残業状況や休日取得率を質問することが重要です。「残業はほとんどない」と言いながら、実際は深夜まで働いているようなケースもあります。
4. 教育制度と成長支援の有無をチェック
新人研修や、資格取得支援制度などが整っているかどうかは重要なポイントです。「すぐに現場に出る」というのは必ずしも悪いことではありませんが、適切なサポートなしに放り出されるようでは成長は見込めません。マニュアルや研修プログラムがあるかなども確認しましょう。
5. 過度なノルマや精神論の有無をチェック
「結果がすべて」「売れないやつはいらない」といった極端な成果主義や、「根性」「気合」といった精神論に頼った指導方針があるような企業は注意が必要です。面接でのやりとりや企業の理念、先輩社員の言動などから、企業文化や価値観を見極めることが大切です。
成長できる会社の特徴とは?
優良な会社には共通する特徴があります。
1. 充実した教育制度と先輩社員の質
体系的な研修プログラムが整っており、段階的にスキルアップできる仕組みがある会社は成長しやすい環境と言えます。実績のある社員の話を聞ける機会があれば、具体的な成長プロセスについて質問してみましょう。
2. キャリアパスの明確さ
入社後3年、5年、10年とどのようなキャリアが描けるのか、具体的なモデルケースを示してくれる会社は、長期的な視点で人材育成を考えています。単に「頑張れば管理職になれる」ではなく、どのような段階を経てキャリアアップしていくのかが明確になっているかどうかをチェックしましょう。
※キャリアパスとは、企業で出世するための道筋と考えてください。
3. 会社の成長性と将来ビジョン
会社自体が成長している、あるいは明確な将来ビジョンを持っている企業では、個人の成長機会も多く得られます。売上推移や店舗展開計画、新規事業への取り組みなどから、企業としての成長性を判断することが大切です。
4. 社員の多様性と評価制度
様々なバックグラウンドや年齢層の社員がいて、実力で公平に評価される文化がある会社は、長期的に活躍できる可能性が高いでしょう。「中途入社の方はどのくらいいますか?」「評価制度はどのようになっていますか?」など具体的に質問してみましょう。

よくある疑問と転職後のリアルな働き方
不動産会社への転職を検討する際、給料や働き方について気になります。ここでは実際に働く人の声をもとに、リアルな現場の状況をお伝えします。具体的なイメージを持って、転職の判断材料にしてください。
年収や労働時間は?20代での待遇実例
筆者の経験や周囲からの情報による実態です。
年収の実態
具体的な年収を知る方法はありませんが、全職種の20代会社員年収分布では300万~400万円が最も多いようです。基本給が月給25万~30万円にインセンティブが加算されるという構成になります。
営業社員の場合、年齢はあまり関係ありません。20代でも経験を積んだ営業社員の場合は年収600万円程度、成績優秀者では800万円を超えるケースもあります。
ただし、これは都市部の仲介営業の場合で、地方や他の職種では異なることがあります。
インセンティブの実態
多くの仲介会社では、成約した物件の仲介手数料の10〜30%程度がインセンティブとして還元される仕組みになっています。例えば、3,000万円のマンション売買で仲介手数料が約100万円の場合、営業担当者には10〜30万円程度のインセンティブが支給されるケースが多いです。支給時期は月給やボーナスなど会社によって違います。
筆者の経験では、30年以上前の話ですが、27歳で年収800万円を超えた記憶があります。ボーナスが加算される給与体型でした。
残業の実態
残業時間は会社によって大きく異なります。大手企業では残業時間の管理が厳しく、月20〜30時間程度に抑えられていることが多いですが、中小企業では月40〜60時間の残業があるケースも少なくありません。
ワークライフバランスは?
土日出勤と代休の実態:不動産業界では土日祝日が営業日であることが一般的です。多くの場合、週休2日は確保されていますが、土日祝日が連続で休めることは少ないと考えておくべきでしょう。
代休の取りやすさ:大手や体制が整った企業では、比較的計画的に休暇が取れるケースが多いです。一方、中小企業では人員不足などから、急な顧客対応で休日出勤を求められることもあります。
有給休暇の取得状況:有給休暇の取得率は会社によって差があります。大手企業では有給取得を推進する動きも見られますが、中小企業では取得率が低い傾向があります。
転職後のキャリアパス
以下の4通りのキャリアパスが考えられます。
営業からマネジメントへ
一般的なキャリアパスとしては、営業職として3〜5年経験を積んだ後、チームリーダーや店長などのマネジメントポジションへステップアップするケースが多いです。大手企業であれば、支店長や本部長といった上級管理職へのキャリアパスも明確に示されていることが一般的です。
専門分野へのシフト
営業経験を活かして、査定専門や契約専門、投資用不動産のコンサルタントなど、特定分野のスペシャリストとしてキャリアを築くケースもあります。また、営業から管理部門やトレーニング部門など、バックオフィス系の職種へ移行するパターンも見られます。
独立・起業の可能性
不動産業界は比較的独立のハードルが低く、経験を積んだ後に独自の不動産会社を設立したり、フランチャイズ加盟店のオーナーになることが容易です。5〜10年の経験を積んで独立する方も多く、成功すれば会社員時代の何倍もの給与も不可能ではありません。
異業種への転職の可能性
不動産業(特に仲介業)で培ったセールススキルや顧客対応力、不動産知識は他業界でも評価されます。特に金融機関、建設会社、住宅メーカーなど関連業界への転職は比較的スムーズです。
まとめ
20代での不動産会社への転職は、キャリアの大きな転換点となる可能性を秘めています。未経験者でも挑戦しやすく、頑張りしだいで高収入も期待できる魅力的な業界です。一方で、不規則な勤務形態や厳しいノルマなど、現実的な課題もあることを理解しておく必要があります。
筆者の経験では大手不動産会社や地域で多店舗展開している会社であれば、仕事量も情報量も豊富なので新入社員が成長する環境が整っています。